夏だから幽霊話というわけでもないが、私の友人に起きたほんとうの話だ。彼には年老いた父がいて、もともと厳格な人柄だったせいか、急に老害になってしまった。すぐに頭に血が上るようになってしまったのだ。
彼は実家から離れて暮らしていたため気がつかなかったが、同居する兄の家族も、また近所の妹夫婦もほとほと手を焼いていた。行く店行く店で怒鳴り散らすので、もう誰も相手にしてくれない状態だった。厳しすぎる父に嫌気がさして家を飛び出しただけに、負い目を感じていた友人は、いろいろ考えたあげく、父のために特別な帽子を作ることにした。
この猛暑ではもう当たり前のことになったが、外で働く人々は身を守るために冷却ファンのついた上着を着ている。友人はその冷却ファンを帽子に組み込んだのだった。
彼は父にその帽子を被せ、外出させた。コンビニに入り、買い物をする。会計のとき、店員の態度が気に食わなかったのか、父は急に怒り出した。するとそのときだ。「ブーン」と帽子の冷却ファンが回転しはじめた。たちまち頭が冷やされ、なにごともなく会計は終わった。
優秀な技術者であった友人は、父の怒りに反応して頭を冷やす帽子を開発したのだ。
それからも帽子は、老父の頭が熱を帯びるたびに「ブーン」と作動し続けた。カスタマーハラスメントは次第に減り、友人と家族もようやく落ち着いた暮らしを取り戻した。
それからしばらくして友人の父は亡くなった。葬儀が終わって、友人は兄と妹とともに実家に泊まった。しんみりと思い出話をするはずが、つまらないことから口喧嘩になった。
兄が弟をなじると、友人は怒鳴り返し、妹が叫んだ。主人を失った帽子が「ブーン」と音を立てた。