私たちの毎日はつらく厳しい。朝早く起き、満員電車に乗り、朝から晩まで働き、夜はもう疲れて何もできない。具合が悪くても病院にも行けない。なにか病気があって死んだとしても、雇い主はいっこうに困らない。代わりはいくらでもいるから。
だから、賃金もギリギリに抑えられている。かろうじて生きていけるだけ。贅沢などできない。酒を買う余裕もない。
繁華街に繰り出すなど、夢のような話だ。キャバクラにガールズバー、噂には聞くが、どこにあるかは知らない……。
そこでは美女に囲まれた男が飲めや歌えの宴会をして楽しく暮らしているのだ。私たちの苦しみが決して入り込めない世界で、型破りで、愉快で、淫らな宴会が開かれている。そのあいだに今も、別の世界に暮らす私たちは苦しみ、死んでいく。そして、次の私たちが生まれ、やはり苦しんで死ぬ。涙を流し、絶叫し、呪いながら死んでいく。幾世代もこれが繰り返されるのだ。
だのに、宴は終わらない。私たちの絶望を嘲笑うがごときだ。
もちろん、いつか宴は終わる。そのとき、男はこうつぶやくのだ。「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう!」と。
そして、帰途についた男は驚く。たった3日3晩の宴会だったのに、帰ってみると世界が激変しているのだ! 300年、500年、1000年……あっという間に経ってしまった!
そのとき、男は土産にもらった箱に気がつく。決して開けてはいけないと言われた箱。その箱を開ける。
ああ、その中から出てきたのなんだろうか。もちろん、私たちの怨念だ。私たちが苦しんでいたあいだ、美女と遊び呆けていた男への憎悪だ。何百年にもわたって溜め込まれた猛毒の恨みが、モクモクと溢れ出て、男の精気を奪い、一瞬で萎れさせる。