「人類はいかにして猿から進化したのだろうか」 ダーウィンの進化論以来、いくども問われてきたこの疑問こそが、古生物学者、吉田八郎を突き動かす原動力だ。
「たしかに、この問題について多くの研究がなされてきましたが、いまなお謎に包まれているのです」と吉田は目を輝かせながら語る。
その理由は、あまりにも化石証拠が少ないためだ。「ちょっと考えてみてください。人類への進化の道筋を一本の鎖だとすると、いまは、あちこちで環が抜けている状態なんです。この欠けた環、つまりミッシング・リンクを見つけるのが、私の使命です」
このミッシング・リンクを探し求めて、吉田は世界中を駆け巡り、ありとあらゆる場所で発掘を行なってきた。現在、彼が発掘調査で滞在しているのは、アメリカ合衆国ロードアイランド州、ニューポートだ。
「もう批判ばかり。まともに取り合ってももらえませんでした」 新大陸で古人類の化石が見つかるわけがない、ましてやミッシング・リンクなど、そうした声があるのは吉田も承知だ。
「でもね、勝算があるかないか、といわれればありますよ」とはちきれんばかりの笑顔で明かす。「じつは最近、驚くべき発見があったのです。これをみてください」
と、デスクから取り出したのは、タンバリンの化石だ。「500万年前のものです。これは類人猿と人間をつなぐ存在であるタンバリンマンがこの地域にいたまぎれもない証拠です。まちがいなくミッシング・リンクに近づいている、そんな確信がありますよ」
では、そのミッシング・リンクとはどのようなものなのだろうか。こんなぶしつけな質問にも笑顔で吉田は答えてくれる。
「私たちが想像しているのは、アコースティック・ギターとエレキ・ギターの中間のような化石です。アコースティック・ギターを持っていたボブ・ディランが、どのようにエレキ・ギターを持ったボブ・ディランに進化したのか、その過程がわからなかったのです。私たちが挑戦しているのは、この断絶を埋めるミッシング・リンクの発見なのです」
これは成功すればノーベル発掘賞ものですよ、と思わず言うと、吉田はいたずらっぽくつけ加えた。「ええ、まちがいなく100万ドルさわぎでしょう!」