苦い文学

正論

もしかしたら頭がおかしくなりかけているのかもしれない。私は最近苦しいのだ。見えない世界の存在たちが見えるようになった。

それは恐ろしい存在だ。まるで影のようだ。血が影のように流れている。涙も、鼻水も……。

たくさんの子ども、そして女たち、ときどき男……。

これらの悲惨な魂が私を取り巻くのだ! すがりつき、しつこく訴える。殺された! 奪われた! 罪もないのに! 戦争で! 暴力で! 肉体を剥ぎ取られた! 

なのに! なのに! なのに! 間違ってる! あいつらが生きて、私たちが死ぬなんて!

そして、連中は私に復讐を求めるのだ。恨みを晴らしてくれと! 殺してくれと。あいつらの大事なものをすべてなぶり殺しにしてくれと!

私は困り果てる。連中の言うことに非はない! 正しいのだ! だが、できない、できない。そんなのは私の仕事じゃないんだ……ほっといてくれ。それに気持ち悪すぎる。惨めで醜く汚らしい! だが、霊たちは私に付きまとう。しつっこく。見込まれてしまったのだ!

私は苦しみ、のたうちまわり、なんとか逃れようと手当たり次第に掴む。もうだめだ、飲み込まれる……だが、そのとき私の心にあの言葉がやってきた。ああ、なんという無情な言葉だろう。私はどれだけその言葉に痛めつけられたことだろうか。だが、その言葉がいま私を!

いま私を助けてくれる……私は血だらけの汚れた霊たちにこう言い返す。

「恨みを晴らすって? なるほど、あなたのいうことは正論だけど、その正論じゃ世の中は動かないよ」

霊たちはたちまち静かになる。「正論だ」この一言で、もう何も言えない。「ときには我慢が必要じゃない? 正論はごもっともだけどさ」 追い討ちだ。悪霊退散だ。

「正論」という言葉は、弱くてうるさい連中の「正論」を捻り潰すためだけにある言葉だったのだ!

ありがとう、ありがとう、「正論」という言葉を考えてくれた人よ……。