苦い文学

真夏のチャリティー

なんの不安があろうか。私たちの行く手には、すばらしい美しい世界が待っているのだ。人が人として扱われ、助け合いの精神に溢れ、チャリティーの旗印のもとに、高貴な精神の持ち主たちが集う世界が。

夏になると、世界中で著名人たちが長く苦しい距離を走り出すのだ。走った分だけ、善意が積み重ねられていく。貧困者を思いやる人々の心が駆り立てられる。だれもが募金箱に殺到する。小銭の詰まった瓶を片手に放送局に押しかける。アメリカでも、中国でも、ロシアでも、アフリカ諸国でも!

そして、この世界では誰ひとり取り残されることはない。これが黄金律だ。病気、貧困、障がい、災害……あらゆる苦難にある見捨てられた人々のために、心温まるプログラムが実施され、巨額の募金が降り注ぐ。いや、これはお金ではない。愛なのだ。愛、ずっしりとした愛だけが私たちを救うのだ。

さらに、有名ミュージシャンたちが一堂に会して、チャリティーコンサートだ。かき鳴らされるギターと激しいシャウトの向こうに、腹を膨らませた餓死寸前の老人の姿が映し出される。まるでバングラデシュのあのコンサートか、あのウィアーザワーかみたいだ……。

私たちは心動かされずにはいない。思わず言葉が口から溢れ出る。

「世界中のみなさん!」 各国から届いた古着を着込んだ私たちは叫ぶ。「私たち、日本人はこのご恩を一生忘れません!」

なんの不安があろうか。私たちの行く手には、すばらしい美しい世界が待っているのだ。