尋ねを誘発する「尋ねられ顔」とでも言ったらいいのだろうか、私は海外の旅行先で、現地の人に道を聞かれることがある。
台湾・台北の街をひとり散歩していたら、年配の女性が中国語で話しかけてきた。中国語はわからないが、道を尋ねているようだ。だが、私に何が言えよう。そのまま立ち去るほかなかった。
私の風貌は、台湾の人やフィリピンの人に似ているとよく言われる。だから、もしかしたら、同じ台湾人と思ったのかもしれない。
韓国に行ったときも、似たようなことがあった。日本から着いたばかりで仁川空港をうろうろしていると、やはり年配の女性が話しかけてきた。「〜はどこですか?」ということを聞いているのはわかったが、それだけだ。私はただ首を振るしかなかった。
このことを知り合いの韓国人に話したら「さすが、現地の人に間違われましたね」と返事が返ってきた。こう言われて悪い気はしない。
そして、チュニジアに行ったとき、地方の町でバスを待っていると、隣で立つチュニジア人男性から、「次に来るバスが遅れているのか」と尋ねられた。
台湾でも韓国でも、私を現地の人と間違う人はいるかもしれないが、アジア人のほとんどいないチュニジアではそれはまずありえない。ここでようやく私は、ことの真相に気がついた。
世の中には、疑問に思ったら、周りにいるのが誰であろうと尋ねずにはいられない人がいるのだ。つまり私は「尋ねられ顔」でもなんでもなく、ただたまたまそうした「尋ね人」に出会ったに過ぎないのであった。