苦い文学

閉じ込めの夏

今年もまた、閉じ込めの夏がやってきました。ちびっこたちが地獄のような暑さの車の中に閉じ込められ、どれだけ泣いても喚いても、どれだけ熱い扉を窓を叩いても、誰ひとり助けに来ず、完全に忘れ去れられて、焼き殺される夏が。

「今年はいったい子どもが何人死ぬか、ズバリ当てましょー!」と、愉快な YouTuber たちが現れて、面白おかしく配信を始めました。

「15人!」「いや8人!」「ゾロ目の22だ!」

遊びとはいえ、みんな真剣です。というのも、みごと当てたら、賞金1億円がもらえるんです。YouTuber のひとりときたら、早くもそのお金をもらった気でいて、ガールズバーで豪遊の皮算用。ニヤニヤしながら「お願い、10人死んで!」だって。

「結果発表は9月31日! それまでにどんどん閉じ込めて!」と YouTuber が呼びかけたら、もう炎上どころの騒ぎじゃありません。日本中が激怒して、罵詈雑言を浴びせかけます。

「吊るせ! 子どもの命を粗末にする虐待 YouTuber どもを締め殺せ!」

YouTuber たちはせせら笑いました。「俺たちに文句言うのは、俺たちぐらい税金を払ってからにしろ、貧乏人が!」

こんなことを言うものですから、日本中がますます怒り狂います。あまりにも頭に血が上ったので、みんなゴジラみたいに口から火を吐きはじめました。

人々は不遜きわまりない YouTuber たちに向かって叫びました。「お前たちの居場所を突き止めて、絶対にぶちのめしてやる!」

それに対して YouTuber たちがまたカッとさせるようなことを言うものですから、炎上に次ぐ炎上で、結局夏じゅう燃え盛ったのでした。

そして、ついに9月31日がきました。この日、人々は2つのことを知りました。ひとつは、みんなが注意深くなったせいで、その夏ひとりも閉じ込められて亡くなる子どもがいなかったこと。そして、もうひとつは、この不埒な YouTuber たちのアジトがついに突き止められたこと。

人々が突入してみると、そこには配信機材に囲まれて小さな観音様の像が立っていたということです。