苦い文学

ゴミ箱なき世界

今日はとても暑い日だった。友人と上野駅で電車を待っているときのこと、私は、自動販売機でお茶を買い、ほとんど一気に飲み干してしまった。

空いたペットボトルを捨てようと自販機の隣に行ったが、普通あるはずのペットボトル・缶・ビン専用のゴミ箱がなかった。「これすらなくなるとは!」と私は内心あきれながら、もう駅からはいかなるゴミ箱も消え失せたのだ、と暗澹たる気持ちとなった。そして、ペットボトルは、どこかで捨てようとそのまま持っていたのだった。

そのとき、友人が「あぶない!」と叫ぶや、私の手からペットボトルを奪い取り、まるで爆弾かなにかのように、ホームから放り投げた。

ペットボトルは隣のホームの上に落ち、乾いた音を立てて転がった。

「なにをするんだ!」と私が彼を咎めると、「死ぬところだったぞ!」と彼。そして「ほら!」といまや線路に隔てられたペットボトルを指差した。

ちょうどそのホームには、善良そうな男性がやってきたところだった。その男性は落ちているペットボトルに目を留めると拾い上げ、あたりを見回した。ゴミ箱を探しているのだ。

「なんとすばらしい人物だろう!」と私は、少々友人に対する嫌味を込めてつぶやいた。

そのとき、向こうのホームに電車が入ってきた。電車は私たちとその善良なる男性のあいだに滑り込み、私たちはその姿を見失った。電車が止まり、人々が乗り降りするのが見え、そしてふたたび電車は動き出した。

線路が空になったとき、私たちはなんというものをホームに見つけただろうか。そこには巨大なゴミの山ができあがっていたのだ。空のペットボトル、割れたビン、紙屑、弁当箱、食べかす、新聞紙、雑誌などが作り上げた山だった。

いっしゅんゴミの山が揺れたかと思うと、汚れた液体の飛沫が上がった。山は恐ろしい音を立てながらゆっくりと崩壊し、廃墟の中からあの善良な男性が姿を現した。彼は身体中血まみれになりながら、ゴミの山から抜け出そうと苦しげに歩んだ。だが、数歩で力尽き倒れたのだった。

「あれが!」と友人は叫んだ。「ゴミ箱なき世界で、たったひとりゴミを手にしていた人間の末路だ! この無情な世界ではゴミを持っているところを見られたが最後、ゴミ箱認定されずには決して終わらないのだ!」