女性アナウンサー「それでは次のニュースです」
男性アナウンサー「桑畑さん、『くずおれる』ってご存知ですか?」
女性アナウンサー「え? 『崩れ折れる』ではないんですか?」
男性アナウンサー「いえ、違うんです。では、映像をご覧ください」
(映像はじまる)
老人たちが会議室に集まっている。ひとりの老人が立ち上がり、みんなの前でグラグラと揺れ、がくりと膝をつき、そのまま尻餅をつき、横になる。
老人たちが倒れた老人を見て声をかける。「うーん、違うなあ!」「ちょっと、ズレているよ」「これは『崩れ折れる』だな!」 倒れた老人は恥ずかしそうに立ち上がる。
アナウンサー「この方々は、『くずおれる』を再現しようと活動を続けてらっしゃるのです」
(老人へのインタビュー)
「『くずおれる(頽れる)』とは、辞書を見ると『くずれるように倒れる。くずれ倒れる。』などと書かれていますが、語源を紐解くと『崩れる』とも『折れる』とも関係がないのです。もともとは『くずほれる』と一語だったのですが、『ほれる』が『おれる』となった結果、『折れる』と勘違いされて、『崩れ折れる』の仲間にされてしまったというわけです。私たちは『くずおれる』本来のくずおれ方を現代に復活させようと毎週活動を続けています」
今度は別の老人が立ち上がって、「くずおれる」の実演を行う。頭からバターンと激しく床に倒れる。老人たちから声が上がる。
「いいかも!」「その調子!」「うーん、ちょっと折れている感じが強かったかな!」「そうそう、これじゃ『折れ崩れる』だ!」
倒れた老人は脳震盪を起こし、立ち上がれずに痙攣している。
(頭に包帯を巻いた老人)
「私たちの体が持つまで、『くずおれる』を探求しますよ!」
女性アナウンサー「はあ、とても勉強になりました。日本語って奥が深いですね」
男性アナウンサー「ええ、日本語の良さを次世代に伝えたいと、みなさん語っておられました。『くずおれる』をきわめたのちは、『倒れる』と『斃れる』のたおれ方の違いを明らかにしたいと意気込んでおられましたよ」
女性アナウンサー「無理をして、くずおれなければいいですね。では次はお天気です……」