その人が颯爽と現れたとき、私たちはついに新しい時代の幕が開いたと感じたものだった。その人は私たちにこう約束したのだった。
「私はみなさんの命を守ります。暮らしを守ります。そして、この国を守ります」
私たちの国はといえば敵ばかりで、私たちの命はまさに脅かされていたのだ。私たちはその人に全面的な信頼を寄せ、自分たちの命と暮らしと国が守れるよう国民の先頭に立ってほしい、と要請したのだった。
そして、ついにその人の時代が訪れた。私たちにとって、その人と同じ空気を吸い、同じ国土をともに歩むことは、なんという誇りであったことだろうか。その時代は30年もの長きにわたり、その人が凶弾に倒れるまで続いたのであった。
その人がこの世界を去ったとき、私たちは改めて感嘆した。「あの人は約束どおり、私たちの命と暮らしと国を完璧に守りとおした!」と。
私たちの命の扱いも、暮らしの程度も、国の在り方も、まったく30年前の姿そのままに守られたのだった。
現在、すっかり痩せ細ってしまった私たちは、ときどき伝わってくる外国の豊かで楽しげな生活を見ながら「守るよりも、ノビノビさせるほうが大事だったのでは?」などと考えている。