ソクラテスは、毒薬の入った杯を飲むとき、周りの者に医神アスクレピオスに鶏を奉納するようにと語ったそうだ。私は薬局に行くといつもこのことを思い出す。
とはいえ、薬局といっても、処方箋を出せば数分で終わる迅速に薬の出る薬局のことではない。薬が出てくるまでやたらと時間のかかる薬局のことだ。
こうした薬局では、処方箋と引き換えに受付票が渡され、それから呼び出されるまで、少なくとも1時間だ。いやもっとかかる。閉店までに間に合わなくて、翌日にまでかかることもある。
そんなに薬を揃えるのが大変なのだろうか。あるいは、大きな薬局の薬剤師はがんばり屋で、いつも薬の入った箱を何段にも抱えて走り回っているせいで、前が見えなくて、他の薬剤師とぶつかって薬をぶちまけてしまう、ということでもあるのだろうか。
それとも、膨大な薬を収蔵する薬保管室がもうまるで迷宮のようで、一度薬を取りに入ったが最後、二度と出てくることができないのだろうか。それか、大きな薬局は、待つことが自然治癒力と免疫力を高めるという、独自のセルフメディケーションを提供しているのであろうか。
まったく見当もつかないが、薬局でひとり何時間も待たされる私は、これはきっと、お前にはつける薬もなく、匙も投げたぞ、というアスクレピオスからのメッセージではないかという気がしてきて、毒薬をあおりたくなるのだ。
もっとも、その毒薬を出してもらうのにも、そうとう待たねばならないのだが……