苦い文学

記憶とは何か

私たちは自分が寝ていることを覚えているでしょうか。なるほど、寝た、という記憶はおそらく誰にもあるにちがいないでしょう。ですが、寝ている、という記憶はないのではないでしょうか。

寝た、という記憶とは、つまり、私たちが「寝た」という覚醒後の印象についての記憶です。私たちはこの「寝た」と感じた記憶から、それ以前に「寝ていた時間」の存在したことを推論しているのです。ですから、これは寝ている間そのものの記憶ではないのです。

では、その「寝ている記憶」はどうでしょうか。山を登っているとき、私たちは少しずつ山道を登り、少しずつ疲労を感じ、そしてときどき目にする素晴らしい風景にその疲れが吹き飛ぶのを感じます。このプロセスは登山から帰宅した後になっても「登っている間そのものの記憶」として私たちの心の中に残っています。

ところが「寝ている記憶」はこのような「登っている記憶」とはまったく異なるのです。私たちにはプロセスとしての「寝ている記憶」は存在しないのです。

ですから、私はこの国会の場で堂々とお答えするつもりであります。私が審議中に寝ていたかという質問ですが、この件に関してましては、まったく記憶にございません。(「寝ぼけたこと言うな!」というヤジ)