苦い文学

アラムナイ

私の知り合いのある日本人女性が、アラブ圏の大学を首席で卒業したと主張している。そんなことがあるのだろうか。

私は、博識の友人に尋ねた。その人も外国の大学を卒業したのである。彼はただちに「そのようなことはありえない」と否定した。

「私の経験からいえば、外国語で学んで優秀な成績を上げるというのは大変なことだよ。しかも、全卒業生でトップなどほとんどありえない。調べてみなよ、日本の大学で外国人が首席で卒業したことがあるかどうか。ないとは言えないが、普通にあることではないよ」

「だけど、その女性はそう言い張っているんだ」

「まず嘘だろうね」

「だろう? しかも驚いたことに、学生は自分ひとりしかいなかった、だから首席なんだ、って言ってるんだ」

これを聞くやいなや、私の博識の友人の顔色が変わった。「そ、それは本当か?」

「本当かはわからないが、少なくともそう言ってるよ」

「あぶない! その女性から離れるんだ。どんな災難に巻き込まれるかしれたもんじゃないぞ!」

「え? なんで?」

「アラブ圏のどこかに、アサシン大学という暗殺教団が作った大学が存在する。その学校で学生たちは暗殺の技を学び、無敵の暗殺者となって卒業するのだ。だが、そう簡単には卒業できない。なぜなら、卒業できるのはただひとり。同学年のライバルにうち勝ち、その全員を殺した者だけなのだ。そうなのだ……それがたったひとりの首席なのだ。ああ、その女性がもしこの大学のアラムナイだとしたら……? この非情な暗殺者の前では、命などアラムナイがごとき……」