サイゼリヤにしても、ポポラマーマにしても、どうしてこれらのイタリア・レストランは、私たちに間違い探しをさせたがるのだろうか? そんな疑問が、ある起業家に画期的なレストランを思いつかせた。起業家は、なんでも徹底する持ち前の性格を生かして、イタリア料理と間違い探しのシナジー効果をとことんまで追求したのだ。
店の名前は「Individuare la differenza」、その名も「間違い探し」だ。この店では客たちを、あらゆるところで間違い探しが待ち受けている。もちろん、普通の間違い探しだってある。だが、たたみ一畳ぐらいの大きさだ。間違いも 5000 個ある。しかも、メニューも 2 種類置いてある。客は 2 つのメニューを見比べて、500 の間違いを探し出さねば、水一杯も出てこない。
それだけではない。店員もオーダーをとりにくるときと、料理を運んでくるときとでは微妙に違っている。店員そのままで間違い探しなのだ(調理場にいるシェフも帽子の高さを微妙に変えていた)。しかも、運ばれてきた料理も、メニューと見比べて欲しい。少なくとも 10 個の間違いが見つかるはずだ。エビの大きさ、振りかけられたパセリの位置、パスタの太さ……客たちは間違い探しに夢中のあまり、パスタが伸びてしまってもお構いなしだ。
そして、店の内装も、店員の顔ぶれも、供される料理も、毎日少しずつ変わる。だから、客たちは昨日の店と今日の店の間違い探しを楽しむこともできる。しまいには、常連客も微妙に服などを変え始めた。客みずから間違い探しになったのだ。
このような楽しみに溢れた店が繁盛しないはずはない。全国からイタリア料理と間違い探しファンが詰めかけ、もう予約も取れないありさまだ。
こんなに大成功したレストランがあろうか。連日のようにメディアに取り上げられ、経営方針が新書で出ることにもなった。
ところが、半年もしないうちに閉店してしまった。隣に 2 号店を開店して店ごと間違い探しにしようという計画に着手したばかりだった。我が国の行政がこの店で、脱税・産地偽装・不衛生な調理環境・ハラスメント・不法就労など、さまざまな間違いを見つけたのである。
いまでは、空き店舗が残されているだけだ。街の人々は「間違いひとつ見つけた」とその前を通るときにいつも思う。