私は最近その人のことばかり考えている。3年前、同じ職場にいた人だ。ほとんど交流はなかったように思うし、あったとしても、どんな機会にどんな話をしたかとか、まったく覚えていない。だけど、いまになって、その人のしなやかな白い指や、陽の光に照らされた頬のみずみずしさや、まるで庭園でも歩くかのような優雅な足の運びが鮮烈に思い出されるのだ。
私はいつしかこの思い出の強烈さに苦しめられるようになった。まるでその人は私の目の前に今もいるかのようであり、その鮮やかな映像はまるで炎のように私の胸を焦がした。
それがもはや耐え難くなったとき、私はその人に会おうと決意した。インターネットで私はその人のかすかな痕跡をたどり、ついに SNS にたどり着いた。その人の投稿と写真を綿密に検討し、私はその人の家を突き止めたように思った。
これは、その人の家に行け、ということでなくてなんであろう? 運命も私とその人を結びつけているのだ。だが、もちろん、私はストーカーなどではなかった。ただ会って、自分の思いを伝えて戻ってくるだけ。その人もわかってくれるはずだ……私は家を出て、電車を乗り継ぎ、その駅にたどり着いた。ゆるやかな坂を降り、大きな橋を渡った。
まるで不思議なことなのだが、近づけば近づくほど、あの強烈な印象が薄れてきているように感じられた。その人の家の近くにまでやってきた、と意識した瞬間はなんとなく覚えているが、その後、どうしたわけか、私は町の名所巡りをした。
そして、駅に戻り、電車に乗って遠ざかるにつれて、私の心の中にその人の輝くような印象が徐々に戻ってきた。それはますます強烈になり、自分の家に戻ってきた私はいま、その人に会いたいという思いに煩悶している。