その恰幅のいい男は、私を無理やり人垣からひっぱり出すと、そのままどこかに連れて行こうとするのだった。
「さあ、早く行きましょう!」
私は腕を掴んだ男の手を振り払おうとしたが、彼はいっかな離さなかった。
「こっちです!」
「いったいどこに行こうというのです。私は駅に行かなくてはならないのです」
時計を見ると午後3時まであと少しだ。だが、男は「見てください」と、後からついてくる人々を目で示した。いつの間にか増えたようで、人々は私を指差しながら、「奇跡だ!」「神業だ!」「魔法だ!」と口々に叫んでいるのだった。
「もうこうなったら無理でしょう。しばらく私の家で待つしかありません」
「しばらくって!」
「町の人々が落ち着くまでです。大丈夫、今日中に電車に乗れますよ。あんがい忘れっぽいんですから。ただ、今、ひとりで駅に行こうとするのだけはやめてください。危険ですよ」
「危険だなんて! いったいどういう危険が?」
私は尋ねたが、男はそれきり口をつぐんでしまい、ただ私の腕を掴んだまま、群衆から逃げるように歩いていくのだった。