苦い文学

絶景コンビニ(箱根の旅4)

さて、箱根神社を出て芦ノ湖湖畔を歩いていると、ものすごい人だかりにでくわした。

がんばって人垣の向こうを覗くと、コンビニがある。そのコンビニの屋根には黒い大きな覆いが建てられていて、その向こうは見えなくなっていた。

群衆はほとんど外国人で、みなそのコンビニの前で記念写真を撮っているのだった。地元民らしき日本人がたまたまやってきたので尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。

「絶景コンビニのことはご存知かと思います。富士山が屋根の上に乗る映えスポットとして有名になったあのコンビニです。観光客がたくさん集まったせいで、観光公害が問題となり、とうとう黒幕を作って富士山を遮断するということになりました。ここ箱根にあるこのコンビニもまったく同じ状況となり、先日、黒い遮蔽物を屋根に建設して富士山を見えなくすることに成功したのです」

「ですが、ものすごい観光客ではないですか。富士山も見えないのにこれでは、以前はもっとすごかったことでしょう」

「いえいえ、じつは黒い覆いができてから、観光客が一段と増えてしまったのです。本当に困ったことです」

「それはそれはさぞお困りでしょう。ですが、どうしてそんなことが起こりうるのでしょうか」

「ええ、これがじつに不可解なことで、ずいぶん頭を悩ませたのですが、最近になってようやくそのわけが判明しました」

「いったい、どのような理由が?」 大いに好奇心を刺激された私は身を乗り出した。