苦い文学

エコツアー(箱根の旅3)

それらの外国人観光客は、例の「外人観光」にやってきた日本人たちの前までやってきて、物珍しそうに見物しはじめた。そこにはやはり小さな旗を持ったガイドがいて、英語でこんなことを話しているのだった。

「みなさん、今日はとても幸運ですよ! これらの日本人を見てください! 円安と貧困のあまり外国人を観光することしかできなくなった人々なんです。近づくときはお静かに! 臆病な性質なのですぐに逃げてしまいます」

すると、ひとりの果敢な外国人がそろりそろりと近づきだした。手には千円札を持って差し出している。日本人たちは「なんだなんだ、変わった外人だぞ」とざわめいていたが、お金と見るや群がってきた。みごと手懐けたのだ。外国人観光客は興に乗って、次から次へと紙幣を取り出して、ばら撒きはじめた。

日本人たちは「これはいい土産だ」「外人観光の余録だ」などと言いながら、ポケットに詰め込んでいる。

この光景を前におののくばかりの私だったが、今度は別の方向から観光客の一群がやってくるのに気がついた。それは日本人と外国人の混成で、みなトレッキング・ウェアを着ているのだった。ガイドは英語と日本語で交互に案内をはじめた。

「みなさん、貧困のため外国人しか観光できない日本人と、その日本人を観光する裕福な外国人観光客が、この観光地では互いに補い合って共生しているのです。自然が生み出したエコシステムをとくとご覧ください」

エコツアーに参加している観光客たちは、双眼鏡で眺めたり、望遠カメラで写真を撮ったりしていた。きっとステキな写真が撮れたことだろう。