苦い文学

箱根神社(箱根の旅2)

大涌谷の次は箱根神社に行った。ここでなんといっても有名なのは芦ノ湖に迫り出した鳥居だ。

赤い鳥居の中央に立ち、青空と湖を背景にして記念写真を撮るという絶好の映えスポットで、ものすごい行列ができていた。外国人観光客もたくさんだ。

神社の駐車場も観光バスでいっぱいで、次から次へと外国人が降りてくる。なかにひどく古びたバスがあって、そこから降りてきた人々が、小旗を掲げるガイドについて移動しはじめた。どうやら日本人観光客のようだった。外国人観光客に押され気味の昨今、このような古き良き日本人ツアー客がいることに、私はうれしくなって近づいた。

「ここは箱根屈指の観光地でたくさんの外国人観光客がいますよ」とガイドが話している。「あそこをご覧ください。あれはイタリアからの観光客のようですね」

すると、ガイドの周りにいる観光客は「ほほう」とか「あれが!」とか感心している。

ガイドはまた別の方向を指差した。「あっ、お静かに! あそこにいるのはインドからの観光客のようですよ。女性はキレイなサリーをお召しになっていますね。よーく見てください。額にビンディと呼ばれる点の飾りがあるのがご覧いただけますでしょうか!」

「見えた見えた!」「はあ、きれいなものですね」と観光客。ガイドはさらに、ドイツ人のスポーティな姿や、インドネシア女性のヒジャブを観光客に指し示すのだった。

私は思わず観光客のひとりに尋ねた。「みなさんはなにをしていらっしゃるのでしょうか」

「ああ、私たちは外人観光ツアーに参加しているのです。たくさんの外人が日本にやってきているので、私たちはその外人を見物に来たというわけです。今日はお天気にも恵まれて、外人観光にはうってつけですよ!」

と、そのとき背後からざわざわと声が聞こえた。見れば、外国人観光客一行がこちらに向かってくるところだった。