たちまちみんな署長に駆け寄り、ソファに寝かせたり、医者を呼んだり、大騒ぎが繰り広げられる。ようやく落ち着いたとき、相変わらず白目を剥いたままの署長を見下ろしながら、吉田刑事は横川警視正に言った。
「もう、お分かりでしょう。人間は計画を立てているときがもっとも興奮するのです。そして計画のスケールが大きければ大きいほど、興奮はいやましに高まるのです。見てください。健康だけが取り柄の署長が、計画による興奮でこのような状態になるのであれば、心臓に持病があったというAさんなら、どうなるでしょうか。そうです。Bは巧みな計画によって、Aさんを過剰に興奮させることで殺害したのです。さきほど、警視正は凶器は何なのかおっしゃいましたね。計画が凶器だったのです! つまり、世にも異常な計画殺人が行われたのです!」
「ウムム、そんなことが……」 横川警視正は唸った。「しかし、証拠は?」
そのとき、留置所担当の巡査が所長室に飛び込んでくる。「いまBが自白しました!」
「なに?」と横川警視正。吉田刑事は満足げに警視正に言った。
「これがなによりの証拠ですよ。Bを逮捕したとき、彼は私にこんなことを聞いてきたのです。『警察がいちばん興奮するのはどんなときか』と。それで私は『犯行を自供したときだ』と答えたのです。案の定、Bは自白をだしにして巡査に計画殺人をしかけようとしたのです。もちろんご存知のように私が言ったのは嘘です。警察がいちばん興奮するのは、尊い人命を救助したとき、これ以外にはありえませんからね」
そのとき署長が急に起き上がって叫んだ。
「こっ、このままいけば世界は俺のものだあ……」
吉田刑事は苦笑しながらつけ加えた。「もっとも、例外はつきものですが」