かくして、吉田刑事をはじめとする刑事課の人々が署長室に集められた。
署長は吉田刑事を睨みつけると口火を切った。「諸君にお集まりいただいたのはほかでもない。今朝のまことに不可解な逮捕の件だ。我々は非常に困惑している。な、横川くん」
横川警視正は急に呼びかけられたことにびっくりしつつ、それでも落ち着いた口調で吉田刑事に話しかけた。
「私たちは、もちろん吉川警視のことは信頼しているが、そのいっぽう、かいもく事情が飲み込めないのだ。そもそも、これが病死でなく殺人だというならば、いったいどのように犯行を行ったというのだろうか。そもそも凶器はいったい何なのか……」
「そうだ」と署長。「凶器がないのに殺人だと言えるのかね? 吉田くん、説明したまえ」
「わかりました」 吉田刑事は署長の前に歩み出た。「ですが、少し署長にお尋ねしたいことがあるのです。そのあとに、Bが犯人である決定的な証拠についてお話しいたします。では、署長」
「なんだ。私には答える義務などないぞ!」
「ええ、おっしゃる通りです」と吉田刑事は署長を軽くいなすと、こう彼に尋ねた。「仮に、本当に仮になんですが、Bが本当に犯人であったときのことについてお考えをお聞きしたいのです」
「この私が間違っているとでもいうのか、それとも脅しているのか」
「いやいや、その逆ですよ! 本当に犯人ならば、署長にとってこれ以上ないチャンスになるのでは、と考えているのです」
「チャンス?」
いぶかしげに尋ねる署長を見て、吉田刑事の目がきらりと輝いた。