苦い文学

緑の人々

優先席は、高齢者、妊娠中の女性、体の悪い人などのために用意された席だ。

この優先席について、私たちがいつも悩むのは、だれもいないときに、私たちが座っていいのか悪いのかということだ。ある人は「座って当然」というし、別の人は「座るなどありえない」という。

この悩みは私たちにとって相当なストレスで、ただでさえ不愉快なことばかりの電車の移動が、そのせいでさらに苦しいものになっている。

おそらく私たちのこうした懊悩が鉄道各社に伝わったのだろう、最近では、優先席にかならず誰かが座っているようになった。これらの人々は、優先席のピクトグラムと同じような姿格好、つまり、全身上から下まで緑色のボディスーツを着用している。顔も緑色だ。

この緑の人々の役割は2つある。ひとつは、私たちの悩みを取り除くこと。つまり、優先席にもう誰かが座っていれば、私たちはもはや余計な悩みに煩わされることもないのだ。

もうひとつは優先席が必要な人のためだ。緑色の人々は、必要な人が現れれば、すみやかに優先席に誘導し、席を譲るのである。

もっとも、最近では、緑人たちは、座りたい老人たちからお金をとって、優先的に座らせるようになった。

そのせいで、多くの老人たちは優先席から締め出された。かといって、普通の席にはもう戻れない。結果として、老人たちはもう電車に乗らなくなった。

そもそも優先席に座れない私たちだが、全体としてこの成り行きには満足している。