苦い文学

貧乏神の敗北

二人の神様が自分のほうが偉いとケンカをしていた。そこにちょうど見るからに裕福そうな男が通りかかった。神様のひとりが言った。

「あの金持ちを見ろ。あいつを破滅させることができる者が、もっとも偉い神ではないか」

するともうひとりの神様が答えた。「よろしい。では、この私が先にあの男を破滅させてやろう」

その神様はたちまち貧乏神に姿を変え、男に取り憑いた。すると、その瞬間から、男はすることなすことうまくいかなくなった。

いくつも会社を経営していたのだが、円安の煽りを食って次々と倒産していった。手元に残ったわずかな資金で投資を始めたが、ザッカーバーグが詐欺広告をのさばらせたせいで、詐欺師どもにすべて巻き上げられてしまった。

とうとう家もなくなり、公園で寝泊まりするしかなくなった。

貧乏神は誇らしげに言った。「どうやら私がいちばん偉いのではないかな?」

そのときだった。ホームレスとなった男のもとに、いく人もの人々がやってきて、暮らしぶりや体の調子を聞いたりし、さらには食べ物の差し入れを始めたではないか。貧乏神が呆気に取られていると、これらの人々は、男が生活保護を受けられるように助言や支援をし、公的扶助に繋いでみせた。

それどころか、街角で薄っぺらい雑誌を売ることを教えて、若干の収入まで入るようにしてやった。貧しいながらも楽しそうに暮らす男を見て、貧乏神は嘆いた。

「日本の福祉は手厚すぎて手に負えないワイ!」 この言葉を発するやいなや、貧乏神は男からストンと落ちてしまった。

もうひとりの神様は大笑いしながら「今度は私の番だ!」と宣言。自己責任に姿を変えるや、男にしっかとしがみついた。

たちまち男は生活保護も支援も雑誌も投げ捨てて、数日経たないうちに餓死してしまった。