苦い文学

裏切りの辛ラーメン

韓国のインスタントラーメン「辛ラーメン」のパッケージの裏面には、こう書いてある。

「全世界 100 ヶ国以上で販売しているロングセラー商品の『辛ラーメン』は煮込むから美味しいのです」

「煮込むから」! インスタントラーメンは日本生まれだが、ラーメンを煮込む、という発想はなかった。ラーメンは煮込めば伸びるものであり、それは我が国ではタブーとされている。

だが、韓国人はラーメンをついに煮込んでみせた。煮込んでもおいしいラーメンを開発したのだ。日本人である私は、この隣国の発明に敬意を表し、辛ラーメンを作るときは、パッケージの指示通りきっちり4分半、煮込み時間を遵守したものだ。いや、それどころか、異国情緒をもっと味わおうと、大胆にも5分間、煮込むことすらあった。それが韓国流だと考えていたのだ。

さて先日、私は二人の韓国人の友人と上野の韓国料理屋でプデチゲを食べた。プデチゲとは「部隊鍋」であり、米軍の残り物のごった煮が起源だと言われている。ハムやスパムの肉類、野菜、そしてインスタントラーメンをぶちこんで作る。

鍋が運ばれてきた。肉、野菜の上に、インスタントラーメンの塊が乗っかっている。そして、鍋がぐつぐつ言い出したころ、信じられないことが起きた。

二人の韓国の友人が、ようやくほぐれたばかりのラーメンを食べはじめたのだ。

「硬麺、硬麺!」「柔らかくならないうちにどうぞ!」

に、煮込むから、は? 私は絶句しながら、麺を食べる。まだ芯が残っているが、うまい。

私たちはあっという間にラーメンを平らげ、さらに追加でラーメンを注文した。すると、店の人が厨房で茹でたのを持ってきた。

友人はぷりぷりしてる。「それじゃ茹ですぎちゃうから、硬麺にならないのに!」だって。

私はもう決して煮込まないだろう。