【PART 5 メガネからの依頼】
(深夜の新橋SL広場でキョロキョロしている岸川首相。SLの機関室からゴルゴ 13 が姿をあらわす。岸川首相、手を差し出すがあわてて引っ込める)
岸川首相「失礼、君には無縁の “行為” だったな……」
ゴルゴ 13「要件を聞こう……」
(岸川首相、要件を伝える)
ゴルゴ 13「……俺がその弁を塞げばいいんだな」
岸川首相「おお、やってくれるか! なんだかんだいって君にも日本人の血が流れているようだな!」
ゴルゴ 13「俺は血とやらで仕事を決めるほど悪趣味じゃない……仕事に必要なものをすぐに揃えろ」
【PART 6 そんなもんじゃない】
(宮内庁に張り込む外村記者。物々しく人々が出入りする様子に気がつく)
外村記者「なんだ? さっきから出たり入ったり……なにかあるぞ」
(地下施設内。ヘイトの充満するなか、防護服に身を包んだ原田所長とゴルゴ 13)
原田所長「設計図で確認した通り、この先にある安全弁の上部ちょうど 15 ミリの箇所にある穴に粘土を撃ち込めばいい。だが、ヘイトでまともに視界が効かないなか、そんな芸当ができるのか?」
ゴルゴ 13「俺は俺の仕事をするまでだ、お前がお前の仕事をしたようにな……」
(ゴルゴ 13、狙撃の体勢に入ろうとする。その時、ゴルゴの背後で爆発音とともに炎が噴き出す)
原田所長「いかん、炎上がはじまった!」
(原田所長、身を挺して炎上を食い止める)
原田所長「さあ、撃つんだ!」
ズギューン……(チャッ……と銃を立てる)
原田所長(防護服が破れ、ヘイトに被爆している。顔色が灰色)「やった! 食い止めた! これで愛子さまは安全だ! (ゴルゴに)私にかまうなっ! すぐに退避するんだ!」
ゴルゴ 13「日本人の忠義……というやつか……」
原田所長「いや……そんなもんじゃない。私は前途ある若者がつまらん誹謗中傷に苦しむのを見ていられないだけだ……」(ポケットからロケットペンダントを取り出して開くと少女の写真。それを見つめ、弱々しくつぶやく)「この子も、生きていれば同じ年頃だったっけなあ……」(ほほえみながら息絶える)
(宮内庁の外で張り込む外村記者。宮内庁の敷地内から黒煙が上がっている)
外村記者「あの爆発音といい、黒煙といい、何か起こっているぞ! こりゃあ、とくダネだ!」
(外村記者、編集部に慌てて電話をかける)
【エピローグ ただの “ボヤ”】
週刊パンチ編集長(「宮内庁でボヤ騒ぎ」という見出しの書かれた新聞を振り上げて)「なにがとくダネだ! ただのボヤ騒ぎじゃないか! お前は人権侵害の記事でも書いてろ!」
外村記者「ちぇっ、ついてねえや」(と頭をぼりぼりかく)
(愛子さまを特集する新しい週刊パンチが発売され、日本人が貪るように読んでいる光景)
ナレーション:日本では、皇族を持ち上げては叩き、持ち上げては叩く風潮が問題となっている。国連総長は年次総会で「日本人はいつまでこの愚行を繰り返すのだろうか」と異例の言及を行った……。
『皇紀2684年の荒野』完 脚本協力/奥野ほそみち