苦い文学

思考矯正クリニック(2)

医師は再び息子を診察室に戻すと、「ちょっとした検査をしましょう。痛いものではありませんから、気楽にしてください」と言って、看護師に検査機を運び込ませた。

それはちょうど眼鏡屋で視力の検査をするために覗き込む機械に似ていた。そして、まさにその通りに使うようだった。医師は息子に両目をゴーグルのような部分にあてがうように指示した。

「中に何が見えますか?」

「太った豚と痩せたソクラテスですよ」と息子は不機嫌そうに答えた。「並んで立っているのが見えます」

「どちらがよく見えますか」

「それはソクラテスですよ。豚は醜すぎます」

医師が操作盤に触れると、カチリと音が鳴った。「ではこれではどうです。どちらがよく見えますか」

「ソクラテスですが。豚は……少しムッチリしているように見えます」

「では、こうしましょう」 検査機がカチリと鳴った。「どうですか?」

「ソクラテスはちょっと痩せすぎかな。豚はがっしりしています」

「どちらがよく見えますか」

「でもソクラテスですよ」

カチリ。

「豚は……だいぶ絞り込んできましたね。ソクラテスはといえば下っ腹が出ているようです」と息子。

カチリ。カチリ。カチリ。

「えーと。豚は……あれ? ソクラテスが……」と息子は黙りこくる。

「どちらがよく見えますか?」

「どっちも同じに見えますが、強いて言えば、ソクラテス? 豚?」

カチリ。

「どちらがよく見えますか?」

「べつに……どっちも同じです……」

医師によればこれで息子の思考はかなり矯正されたとのことだ。

「それでも悪化することがあります。そのときは、また来てください」

会計のとき、サービスだとメガネケースをもらった。