16になる私の息子がおかしなことを言い出した。「誰もが平和に暮らせる社会をつくりたい! そのためには弱い人々が力を持たなければダメなんだ。戦争が起きたら真っ先に前線に送られる人々が立ち上がるんだ」
兵隊がいなくなったらいったい誰が戦争をしようと言うのだろう。それに戦争に負けたら平和もありえないのに。だが、私は黙っていた。そんな馬鹿げたことを言いたくなる年頃なのだ。
ところが、息子はこんなことまで言いはじめた。「権力を持つ政治家は市民よりも厳しくチェックされるべきだ。そして、もし不正が見つかったならば、市民は団結して追及しなくてはならない」
ますます悪化しているではないか。私はたまらず息子に言った。
「そんなに厳しく監視されるのならば、誰も政治家などやりたがらなくなってしまうよ。日本から政治家がいなくなったら、誰が反日勢力から日本を守ってくれると言うのだ」
すると息子は屁理屈を言い立てた。
「日本が間違ったことをしたときに批判してくれる人々は、反日どころか、親日です」
私はもう心配になってきた。もしかしたら病気かもしれない。いてもたってもいられず、息子を連れて近所の思考矯正クリニックに行った。
診察室に入ると、温厚そうな医師がいた。私たちが座ると、医師は息子に体の具合を尋ね、それから、気分に落ち込みはないかとか、不思議な声は聞こえないかとか、いくつか質問をした。
そして最後にこんな質問を投げかけた。
「太った豚と痩せたソクラテスのどっちがいいかい?」
「それは痩せたソクラテスに決まってます。太った豚はまるで貪欲な資本家のようではないですか……」
医師は息子に席を外させ、こう私に告げた。
「かなり深刻です。ただちに思考矯正を受ける必要があります」