苦い文学

入国審査の列(3)

誰だって荷物を持って延々と列に並んでいたくない。そんなわけで、人々はだんだん列の端にバッグやらリュックやら機内持ち込み可のスーツケースやらを置いて楽をするようになった。

その結果、列の両端にできあがったのが荷物の山だ。こうなると、もう誰も自分で荷物を移動させたりなんかしない。いや、そもそもできないのだ、他の荷物に埋もれてしまって。

もっとも、このころになると、どこからともなく現れた荷物係たちがそれぞれの山で管理を始めるようになる。

荷物係の仕事は2つある。ひとつは荷物がなくなったり、間違って持っていかれたりしないように、荷物に番号をふり、持ち主にその番号の記されたフダを渡すこと。もうひとつは持ち主が列の端に来たときに後ろの列にある荷物を探し出して、前の列の荷物係に渡すこと。もちろん、ただではない。持ち主は端にくるたびに、いくばくかの金額を支払うのである(ドル・ユーロの現金のみ。以前は円も使えた)。

有料ということもあり、並びはじめのころは、荷物を預ける人は少ない。だが、列が進むにつれ、疲労は蓄積し、手ぶらになりたがる人は増えていく。そのため、審査ブースに近づけば近づくほど、荷物の山は大きく高くなっていくのである。

そして、大惨事が発生する。荷物の山が崩れて、ちょうどそのとき端で列を作っていた人々が巻き込まれて、生き埋めになってしまうのだ。懸命の救助活動も虚しく遺体となって発見される入国者もいれば、タイムリミットの72時間を超えて奇跡的に救出される入国者もいる。

もっとも、救出された入国者たちを待ち受けるのは冷酷な現実だ。

列は災害のあいだにも無情に進み続けていたのだ。入国者たちは、割り込むことも許されず、結局、初めから並び直すこととなる。