苦い文学

入国審査の列(2)

いずれにせよ、この列に飲み込まれたら最後、もはや逃れられぬと覚悟しなくてはならない。

入国者たちは慄きながらいつ果てるともしれない行列に並ぶ。だが、そのいっぽう楽観主義が人々を支配するようになる。列は進むに進むから、入国者たちは期待を抱くようになるのだ。

「そうだ、あの国に入るまでもう一歩というところまで近づいたのだ!」

入国者たちはそれぞれ機内持ち込みの荷物を持っているが、並んでいるうちに、だんだん邪魔になってくる。そこで、奇妙な工夫を始めるようになる。

列は幾重にも折り重なっているから、列の端にきたときにその荷物を前の列のほうに置いておくのだ。そうすると向こう端に行ったのち、再び端に戻ってくるまで、手ぶらでいられる。

そんなことにまで気がついてしまったのだ。

そして、その荷物をどうするかというと、それをひょいと掴んでさらに前の列に置いておく。荷物など持たなくてよかったのだ。

だが、入国者たちのこの工夫が、のちになって、つまりずっと列の先で恐ろしい惨事を引き起こすことになろうとは、だれひとり気がつかなかった。