苦い文学

入国審査の列(1)

その国の入国審査はとびきり厳しいことで知られている。だけど、それにもかかわらず誰もがその国に行きたがって、もう激混みだ。

とても大きな空港なので、秒刻みに飛行機がやってきて、次から次へと人々が到着する。さまざまな国からやってきたこれらの人々を、じっくり容赦なく審査して、入国の可否を判定しなくてはならない。

もちろん、審査のブースがひとつ、ふたつなんてことはありえない。地球上のどんな空港よりも立派な空港だ。それなりの設備はある。審査のブースがずらりと並んでいる。端から端を同時に見渡せるような地点などないほどだ。

審査官だってたくさんだ。それこそ24時間体制で、審査という崇高な業務に当たっているのだ。審査のミスを防ぐために、頻繁に交代しなくてはならないし、また、休暇だって必要だ。病欠もあれば、産休もある。育休だって広がり始めている。

だから、ざっと見積もったところ、審査官の数はブースの数の10倍ぐらいだろう。

それだけの体制にも関わらず、入国審査は滞りに滞って、長蛇の列ができあがっている。列はブース沿いに端から端まで伸びている。そしてその端で折り返してさらにもう片方の端まで続く。そんなふうにして列は続き、もう幾重にも折り重なっているのだ。

入国したての人々を待ち受けるのはこの恐るべき列だ。なかには、並ぶまえから絶望し、もといた国に引き返そうとする者もいるくらいだ。

もっとも、帰国のフライトがあればの話だけど。