「違う! 違います!」
地球人たちに厳しい声が飛びます。
「自分の力で声を震わせるんじゃないんです。みんなの声をひとつにしたとき、そこに共鳴が生まれるんです。あの振動が起きるのです! さあもう一度!」
「ワレワレハ宇宙人ダ」
「いいよ! いいよ! その調子!」
指導に夢中になっているのはウルファベンテレロ星人のモフジクーガさん。地球人に「ワレワレハ宇宙人ダ」を教えてもう1万年になります。
「ええ、1万年前のことは絶対に忘れられません」と、モフジクーガさんは楽しげに振り返ります。
「私が地球に初めて降り立ち、『ワレワレハ宇宙人ダ』と言ったときの地球人のあの素晴らしい反応ときたら! これまで60億年のあいだ、全宇宙をハイパードライブで駆け巡り、知性ある生物が暮らす星に降り立っては『ワレワレハ宇宙人ダ』を繰り返してきましたが、最高のリアクションでした」
モフジクーガさんが地球人にこの「ワレワレハ宇宙人ダ」を熱心に指導するのにはワケがありました。
「私たちの種族は滅びつつあります。と言いますか、ここ2億年のあいだ、私ひとりなのです。ですので地球の方々にぜひがとも『ワレワレハ宇宙人ダ』を継承してほしい、そして宇宙の星々を訪問してほしいのです。これが自分に残された最後の仕事だと思っています」
「ワレワレハ宇宙人ダ、ワレワレハ宇宙人ダ、ワレワレハ宇宙人ダ」
今日も太陽系に地球人の声が響き渡ります。