サウナに入っていたら、熱波師がやってきた。
熱波師はしばし軽快なトークで私たちを楽しませたのち、サウナのストーブ内の石に水をかけて、巧みに蒸気を生み出した。そしてまるで魔法のようにタオルを振るって熱波を私たちに浴びせたのだった。
この燃える風を浴びるやいなや、私の毛穴から汗が吹き出した。なんという刺激、なんという快楽! 私は陶然とするばかりだったが、どこからか声が聞こえた。
「これが熱波かよ! 冷蔵庫、開けたみたいじゃねえか!」 それは私の隣の男で、熱波師に手を振り上げて怒鳴っているのだった。「もういい! お前はダメだ! 本物の熱波師を連れて来い!」
その熱波師はなにも言い返さず、ただ私たちに一礼すると、サウナ室から出て行った。隣の男は嘲った。「あの程度で熱波師とは。バカにするな!」
すると、サウナ室の扉が開き、別の熱波師が入ってきた。あご髭をはやしていて、なんだかひ弱そうだ。「おいおい、次も頼りなさそうだぜ! なあ、熱波師さんよ」と隣の男。
すると話しかけられた男はぶっきらぼう答えた。「熱波師じゃない。論破師だ」
男はタオルを振り上げると、ものすごい勢いで回し始めた。猛烈な煽りだ! しかも、タオルの描く円の中心点が刻一刻と変化するのだ。なんという論点ずらし! 一瞬のうちに、サウナ室内の熱風は炎となり、私たちに襲いかかった。
私たちは直ちにサウナ室を飛び出した。間一髪だ。だが、反論しようとした隣の男はみるまに炎上し、もえかすひとつ残らなかった。