苦い文学

日本語の忘却

最近、私は日本語学校でアルバイトを見つけた。週に1回、授業を担当することになったのだ。

私のクラスは初級と中級のあいだで、ようやく会話ができるくらいだ。学生はほとんど中国人だが、ベトナム人もいる。

そして、年配の日本人もひとりいる。その人はまったく日本人の名前なのだ。だが、外国で育った日本人や帰化した人ならば、日本語が話せなくても、別におかしくもなんともない。その人は、クラスの中でもとくに日本語ができず、ただ単語を並べるだけだった。

しばらく授業をしているうちに、その人が少々やっかいな学生だということがわかってきた。振る舞いが乱暴で、他の学生を見下したような態度を取るのだ。もしかしたら、周りが自分より優秀だからストレスが溜まっているのかもしれない、と私は考えた。

他の学生たちは最初は我慢していたが、次第に耐えられなくなってきたようだった。学生たちは口々に不満を言い、なかにはクラスを変えてほしいという人まで現れた。

私はすっかり困ってしまい、学校の教務主任に相談した。すると、主任は私を校長のところに連れて行った。「なんだかおおごとになったぞ……」と困惑しながら、私は校長に事情を説明した。すると、校長はこう答えたのだった。

「他の学生たちがあの学生をイヤがるのは無理もありませんよ。なにしろ、入管の職員なのだから。入管の職員の中には、外国人に『書類、出せ』『そこ、並べ』『お前、何してる』といったぞんざいで乱暴な日本語で対応しているうちに、まともな日本語が話せなくなってしまう人も多いのです。それで、私たちは入管の委託により、日本語を忘れた入管の職員を受け入れて、日本語を教えているのですが……日本語もろくに話せないのに、プライドだけは高いんです! 正直いえば受け入れたくないんですが、拒むと入管から認可を取り消されちゃうかもしれない。つらいとこですが、まあ上手くやってくださいな……」