苦い文学

私たちの奴隷解放宣言

どこからともなく現れたその人は、私たちに勇気と愛と正義を与えた。

その人は、腐り切った政治家たちをぶちのめし、その裏金にまみれた手から、政治を奪い取った。そして、不正を正し、誰もが不当な扱いを受けることのない公平な社会づくりのために、全力を尽くした。

その人は私たちから熱狂的な支持と信任を受ていたが、それには決して満足しなかった。その人は、私たちが自分で声を上げ、正義のために働くように鼓舞した!

その人の現れる前と後では、世界はまったく変わってしまった。以前は私たちにとって世界は誰か他人のものだった。だが、今は! 私たちのものになったのだ!

私たちの国の指導者となったその人は、ある日、奴隷解放宣言を行うことを発表した。私たちは熱狂した。私たちはもはや人に使われ搾取される存在ではない! 本当の自由が実現し、そこではもはや誰もが奪われることがないのだ。

そして、ついに奴隷解放宣言の日がやってきた。私たちはこの解放の日を記念するため、朝から外に出て、行進し、喜び合い、歌いあった。その人は、正午きっかりに私たちの前に姿を現し、奴隷解放宣言を行った。この記念すべき瞬間を歓喜と花火が祝福した。

それと同時に、私たちの引き出しから、物置から、靴箱やクローゼット、便器の中、ありとあらゆる隙間から、見たこともない人がぞくぞくと現れた。それらの人々は、解放されたと主張し、あっという間に私たちを数で圧倒し、私たちの世界を埋め尽くした。