苦い文学

密輸業者の店

メーソートから車で15分ほどのところに、日本の中古品ばかり扱っている場所があるという。牧師は私たちをぜひ連れて行きたいというのだ。

道中、牧師はこういった。「これから行くところでは絶対に撮影しないように」

どうしてかと聞くと「そこはタイとビルマの密輸の拠点で、日本の中古品がタイからビルマへと流されているからだ」という。詳しくはわからないが、現地のタイ警察とビルマ側の組織が取り仕切っているらしく、「取材は断固としてお断り」なのだそうだ。

駐車場に車を止めて外に出る。倉庫のような建物が並んでいて、その前に商品がずらりと並んでいる。店先に並べられているのは、ベビーカー、車椅子だ。そのうちのひとつの店内に入る。

なるほど確かに日本の品々だ。食器棚やソファ、鏡台、桐のタンスなどの家具類もあれば、ギターもぶら下がっている。おもちゃ類もたくさんだ。また、隣のガレージには所狭しと食器が並べられている。なにに使うのか、着物まであった。

志村けんのバカ殿置き時計など懐かしいものもある。また、スターウォーズのAT-ATドライバーのフィギュアなどもあって、これは買おうかと迷った。

奥のほうにはダンボール箱が積まれていて、引っ越しのときに使われたのか「ピアノ、上の棚」などと書かれたものもある。

これはまた別の店だが、フライパンや鍋専用の棚もあれば、ゴルフ用品が積まれているコーナーもあった。

この店の主はムスリム系のビルマ人で、話によるとこれらの品々は仙台からコンテナで送られてきたのだという。確かに仙台の野球チームのユニフォームがぶら下がっている。

日本では人は年老い、死ぬばかりで、そのたびに大量の物品が処分される。ここにあるのもそうした古い年老いた品々だろう。そして、古い世代の品々というのは、そうじて作りがしっかりしているものが多いから、安物ばかりの現代から見ると、どれもかつての豊かだった日本の名残のようにも思える。

私はやがて、失われた文明の遺物が展示された博物館に迷い込んだかのような気がしてきた。