苦い文学

輝く城の男

イルミネーションが一面に広がり、私たちはその美しさに幻惑された。

「神聖な空間にいる感じだ」と彼は言った。「これらの光のひとつひとつが世界そのもので、それぞれ少しだけ違ってるんだ……」

「パラレルワールドだね」と私。「そういえば、最近、パラレルワールドを扱った小説が出たそうだね」

「ああ、『輝く城の男』ね。読んだよ。第二次世界大戦で日本とドイツが負けたという設定のね……」

私たちは光が敷き詰められた丘を登った。丘の上には、発光ダイオードで飾られた巨大なハーケンクロイツが建てられていた。彼は笑いながら言った

「その小説の世界では、これらのシンボルは禁止されているんだ」

「なぜ?」

「このシンボルのせいで多くの人々が殺されたから、だそうだ」

「なるほど。では、その小説は、そういうことはもう起こらない世界のことを書いているのだね。だが、それは結局、現在の私たちの世界と同じじゃないか」

「いや、その小説では、にもかかわらず戦争ばかり起きているのだ」

私は返事をせず、光の世界に意識を集中した。多くの人々の犠牲の上にようやく達成できた平和を蔑ろにして、戦争に異常な関心を寄せる人がいるなど、とうてい理解しがたかった。

イルミネーションはどこまでもどこまでも続いていた。まるで遠い世界に来たような気がして、自分が帝都ナチス村にいることなどすっかり忘れてしまった。