苦い文学

私の記憶術

傘をなくさないためのいちばんよい方法は、傘を捨てようとすることだ。私はある日、傘を不法投棄しようと思って外出したが、結局どこにも捨てることができずに、家に持ち帰ってしまった。ふだんならば、百パーセント傘を忘れるような状況でも、捨ててやろうという意識がその邪魔をしたのだった(このことについては、このブログのどこかで書いた)。

私は最近、この心理を記憶術にも応用している。つまり、ものごとを忘れないためのいちばんよい方法は、なんとかして忘れようとすることなのだ。

私はもともと記憶力がよくなくて、なんでも忘れてしまう。書いても忘れる、聞いても忘れる、口に出しても忘れる……なにをやっても記憶に定着しないのだ。

そこで、私は傘のエピソードを思い出した。覚えようとするからよくないのだ。忘れようとすればいいのだ。そうすれば、かえって記憶されるのではないだろうか。

もう絶対に覚えるものか! そんな気持ちで私は勉強を始めた。

成果といえば、まったくなかった。私はあいかわらずなにひとつ覚えていなかったのだ。だが、ちっとも残念ではない。なぜなら、そもそも私は絶対に忘れようとしていたのだから。