その駅は時代の狭間に位置している。中央改札口を出て西出口のほうに向かえば動く歩道があり、それに乗っていくと、整然としたペデストリアン・デッキに出る。
そのデッキは、美しい建物群に取り囲まれている。高層オフィス・ビル、ユニクロやスタバの入った賑やかなショッピング施設、便利な公共施設など、人々はデッキを歩いてそのまま入ることができる。まさに令和の最新式の駅だ。
いっぽう、東出口はというと、中央改札口から東に向かうとすぐに大きな階段がある。下りながら、あちこちにかかっている大きな看板が見えるが、ほとんどパチンコ屋か医院だ。階段の下には売店があり、お菓子やお弁当、タバコと酒が売られている。その脇には公衆電話がずらりと並んでいる。昭和の駅だ。
東口には大きなロータリーが広がっていて、その中央にはのびやかな姿の銅像が立っている。そして、こっち側には大きなビルなどなくて、ただごちゃごちゃと商店が立ち並んでいるだけだ。
誰もが平気でタバコを吸っている。喫煙所などない。どこもかしこも吸い殻が落ちていて、注意して歩かないと、痰を踏んでしまう。
あるとき、東口の大階段で事件が起きた。男が、前を歩く女学生のスカートの中を鏡でのぞいていたのだ。気がついた人々がとらえようとすると、男は階段を駆け上って逃げた。
男は中央改札を通り過ぎ、西口から外に出ようとした。だが、結局そこで追いかけてきた人々に捕まってしまった。警官が駆けつけてくる。人々が警官に引き渡すと、男はこう言って抗議した。
「昭和の出来事を令和になっていまさら持ち出そうってのか!」