苦い文学

私人逮捕

交番に男がひとりやってきて、警官に大声で話しかける。

「お巡りさん、現行犯で私人逮捕したので連行してきました! さあ、きりきり歩け!」

「逮捕? 誰?」

「はっ、自分であります! 自分で自分を私人逮捕したのです! ちくしょう! 捕まっちまった!」

「公務執行妨害以外思いつかんが、なんで?」

「リベンジポルノの現行犯です! やめてくれ! 俺は無実だ!」

「リベンジポルノ? では、元彼女かなにかの性的な写真や動画を、ネット上でばら撒いたと?」

「違うのです。こいつは、自分に対して教育虐待をした親へのリベンジとしてポルノを朝から晩まで見まくっているのです。私はその現場に踏み込み、現行犯逮捕しました! とんだリベンジポルノ野郎です! さあ、お巡りさん、こいつに法の裁きを!」

と、男、警官の目の前でドッカと座り、腕組みをして叫ぶ。

「ええい、ここまできたらしょうがねえ。さあ、煮るなり焼くなりするがいい!」

警官、男を追っ払う。すると別の男がやってくる。

「お巡りさん、リベンジポルノの現行犯で自分を私人逮捕しました! 不当逮捕だ! 弁護士呼べ!」

「またか」

「こいつは、元カノとの素敵なエピソードをネット上で公開する、リベンジ感動ポルノ常習犯で……」