上野駅の構内を歩いていたら、急に後ろから押された。振り向くと、見知らぬ男が倒れかかってきたのだった。驚いて押し返すと、男は別の通行人のほうへとよろよろと進んで行った。
通行人はとっさに男を突き飛ばした。男はその勢いのまま壁に激突し、跳ね返され、床に倒れた。
「これはただごとではない」と私は駆け寄った。よく見ると、手は擦り傷とあざで二目と見られないありさまだ。顔はあちこちが腫れて膨れ上がり、鼻血が流れでていた。明らかに暴行の被害者だ。
あわてて介抱しようと手を差し伸ばすと、男は手で拒み、苦痛に呻きながら立ち上がった。そして、おぼつかない足取りで歩き始め、今度は大きな柱に頭からぶつかった。
「大丈夫ですか!」と私は叫んだ。男は柱に跳ね飛ばされながら「ええ! 大丈夫です!」 こう言った直後、男は自動販売機に正面衝突し、「というのも、私はなんにでも」と叫ぶ。
と、外国人観光客のスーツケースにつまづいて転ぶ。「いたっ、ぶつかるたちなのです」
苦悶に歪んだ顔で「ですのでー」と男は叫ぶと、高校生たちが現れた。男はそっちのほうに突進する。
若者たちは男の接近を手で防ぎ、笑い声を上げながら強く跳ね返す。男はまるでボールのように転がっていく。
「私は! 私は!」と男。その先にはエスカレーターがある。その手すりに激しく衝突する。脇腹を苦しげにさすり、大声で叫ぶ。
「卑劣なぶつかりおじさんではございません!」
男はエスカレーターにばたりと倒れこみ、そのまま上方へと運ばれていった。