苦い文学

クリスマスの伝説

東ローマ帝国時代のアナトリア半島では、聖者と悪魔の物語が広く流布していた。

その悪魔は、夜になると民家に忍び込み、子どもを誘惑し、さらっていく。そして、どこかの暗がりで、その子の肉や骨を食べるというのである。

こうした伝承には、当時の人身売買の習慣が反映されていると考える人もいる。いずれにせよ、残されたわずかな資料からも、当時の人々がどれだけこの悪魔を恐れていたかがよくわかる。

さて、たびたび悪魔に子どもを奪われた小さな村があった。子を失った村人たちが悲嘆に暮れていると、どこからともなくひとりの聖者が現れ、悪魔の退治法を教えた。

「ウイキョウの種を練り込んだパンを子どもに持たせよ。なぜならば、悪魔のもっとも厭うものなれば」

そこで村人たちがこの言葉の通りにしたところ、悪魔は二度と現れなかったという。

ウイキョウ入りのパンを子どもに持たせて、悪魔を避ける風習はその後、小アジアに広まっていった。やがて、この風習が祝祭化すると、子どもにお菓子やオモチャなどを持たせる行事として定着した。

これが現在のクリスマスの源流のひとつとなっている。サンタクロースの衣装が赤いのは、かつて悪魔だったころ、子どもの血で全身血まみれだったことの名残りであろう。