私たちの大学の総長が、大学創立記念日の式典で「スピーチとスカートは短い方がいい」と言ったとき、教職員の誰一人この言葉に異議をとなえるものはいなかった。
なぜなら、「こんな発言は許されない」とか「性差別的だ」とか「時代に逆行している」などと言っているのが、総長の取り巻きの耳に入ろうものなら、すぐに首が飛ぶことが分かりきっていたからだ。
ロングスカートの女性出席者すら、自分の身が危うくなるのではと震え上がった。それで、少しばかりスカートをたくし上げたくらいだった(もしかしたら、それも卑劣な総長の狙いだったのかもしれない)。なんにせよ、総長は私たちを生かすも殺すも自由だった。
式典が終わり、数日経ったころ、信じられないニュースが届いた。何者かが、式典のようすをひそかに録画していたのだ。動画はネット空間に投じられ、総長の不見識な発言は恐ろしい勢いで拡散していった。
私たちの大学に抗議の電話が殺到し、記者が詰めかけた。総長とその取り巻きは「こんなもの」とまったく相手にしなかった。だが、文科省が動き出していると聞くと顔色が変わった。
急きょ学内を通知がめぐり、今日、私たち教職員全員はふたたび講堂に集められた。そして、総長が再び私たちの前に立ち、怒りに目をギラギラさせて、スピーチをはじめた。
今度は「スピーチとスカートは短い方がいい」などそんな言葉は一言もなかった。ただ罵詈雑言と欺瞞と自己賛美だけがあった。
スピーチが始まってもう何時間も経っている。講堂の出入り口は固く閉ざされている。軽食どころか水も与えられず、トイレに行くことも許されない。
私たちが裏切り者を差し出すまで続けるつもりの総長にしてみれば、スピーチと拷問は長ければ長いほどいい。