苦い文学

人間文

宇宙から巨大な船が何隻も飛来し、地球の上空を飛び回った。私たちはついに地球の侵略がはじまったと考えた。そこで、人類は史上初めて一致団結して、入念な戦闘準備を進めた。

だが、ある日、巨大な船は世界の上空で停止した。そして、その船のうちでももっとも大きな船から、見慣れぬ生命体が姿を現し、あらゆる波長で信号を発信したのだった。

世界中の言語学者がその解読に取り組み、その信号を翻訳し、公表した。

「ワレワレは宇宙人だ」

地球上は大騒ぎとなったが、私たちは徐々に落ち着きを取り戻した。というのも、これで宇宙人の意図がはっきりしたからだった。むしろ友好的なのだ。というのも、もし悪意ある宇宙人であれば、「ワレワレは」などという自己紹介なしにいつでも襲いかかって来れたはずだから。

私たち人類は、ついに宇宙世界の一員に迎え入れられたのだ。なんと素晴らしい未来と冒険が待っていることだろうか!

私たちは武器を捨て、歓迎の準備を始めた。そのとき、言語学者たちが大あわてで追加の報告を発表した。そこにはこんなことが書かれていた。

・「ワレワレは宇宙人だ」の「宇宙人」とはこの生命体から見ての「宇宙人」であり、この文脈では地球人を指していること。
・「ワレワレは宇宙人だ」は日本語の「うなぎ文」に該当すること。
・うなぎ文とは「ぼくはうなぎだ」という文のことであり、うなぎを注文するときに使われる。
・したがって、「ワレワレは宇宙人だ」は誤訳であり、正確には「我々が食べるのはこれらの地球人だ」と宣言していると考えられる。

だが、この報告が世界中に届く前に、船から無数の生命体が出現し、私たちをつかまえてバリバリ食べはじめた。