だれもが「地頭のいい人」を褒め称えている。だが、地頭の悪い人間のひとりとして、私は文句を言わずにはいられない。「地頭がいい」というのは病気だ。それはただ単に「頭の回転が速い」だけの空虚な病なのだ。
実際、頭の回転が速いということは、そんなに褒められたことではない。たとえば、それは食べるのが速いのに似ている。早食いはいつか体を壊す。ゆっくりよく噛んで食べるに越したことはない。
それと同じで、頭の回転が速いだけだと、かならず害が起きる。むしろゆっくり考えなくてはならない。本当の頭のよさとは、頭の回転に振り回されるのではなく、それに歯止めをかける能力のことではないか。だが、回転を遅らせてゆっくり考えるためには訓練が必要だ。
訓練とは、事実を集め、仮説を立て、その仮説を検証し、誤りがあれば現実に即して直す。難しいように思えるが、普通の人なら誰でもやっていることだ。
ただ「地頭がいい病」はこれができないし、むしろ軽蔑すらしている。その結果、自分の頭の回転の赴くままに世界を理解し出す。こうなるともう好きなものしか食べない。頭の回転習慣病だ。そのうち陰謀論にはまりだす。
孔子の言葉に「学びて思わざれば則ちくらし。思ひて学ばざれば則ちあやうし」というのがある。私は論語の解釈ができるような知識はないが、ここでいう「学ぶ」というのは、上で述べた「現実を相手にした訓練」のようなものだろう。そして「思う」とは「頭の中の働き」だ。
事実を扱う訓練だけをしても意味がないのはもちろんだが、「地頭のよさ」だけで現実をすっ飛ばそうとするのは、あぶない。