苦い文学

最低支持率

「岸田首相に対する支持率がまた最低となりました。もはや危険水域に達したとの見方もなされていますが、これからが勝負どころともいえます。岸田内閣の今後について、政治学者の八旗七郎さんにお聞きします。今回のこの調査結果をどうお考えですか?」

「大方の予想通りといったところではないでしょうか」

「ここまで下がりますと、持ち直すのは難しいという意見も出ていますが」

「ええ、確かにそうでしょう。ですが、ひとつ興味深いのは、この支持率の低下がきっかけとなって、岸田内閣を支持する動きが生じていることです」

「それはどういったことでしょうか」

「ひとことで言えば、支持率の低下に自分を重ね合わせている層の出現、と言いましょうか」

「それは、これまでの支持層とは違うということですか」

「ええ、そうです。まったく新しい支持層です。どういうことかといいますと、長く続いた安倍政権の結果、日本社会には悲惨な暮らしをしている人がたくさんいます。働きたくても働けない、履歴書を送っても返事もない、仕事もお金もない、年金もない、家族がいない、友人もいない。社会に取り残された人々です。こうした人々が岸田首相に希望を見出しはじめたのです」

「いったいどういうことで?」

「背景には、支持率が低いのは自分だけではないのだ、首相もなんだ、という共感があります。これらの人々は社会に見捨てられた人々です。いいかえれば、社会からの支持率が低いと感じているのです。これらの人々と岸田首相の双方の支持率の低さが共鳴しあっている状況が今なのです」

「なるほど。その新たな支持者層はどれくらいのボリュームがあるのでしょうか」

「これら最低の人々による支持率を最低支持率と呼びますが、私の見積もりによれば、現在、79%に達しています。これは、これまでの最低支持率の最高支持率となっています」

「これは驚きですね。となると、今後、岸田内閣の支持率も上昇する、と?」

「いいえ、それはありません。最低支持層の最低支持率は支持率が最低支持率である間だけ最高支持率となるというのが定説なので……」