苦い文学

弁護士たちの山

この夏、私はソロキャンプにハマり、大金を投じてキャンプ道具一式を揃えると、夏じゅうあちこちの山で孤独と自然、そして肉料理を楽しんだ。

とある山の奥地でキャンプを設営したとき、私は少し斜面を降りたところにある渓流でビールを冷やすことにした。清らかな流れの中にビールを入れ、何の気なしに水の流れを見つめていた私は、小さな黄金色の輝きに目をとめた。屈んで拾い上げる。それは砂つぶぐらいの大きさだったが、紛れもない金だった。

私は夢中になって川の砂を手で掬い、さらに金を探したが、見つからなかった。私はもっと砂金が採れるかもと考え、川上へと歩き始めた。

どれくらい遡ったか、あるところで渓流が急にひらけた。そこでは、人々が篩を手に砂金採りをしてるのだった。奇妙なことに、みな背広姿だったが、私はかまわず川に駆け寄り、砂を掬いはじめた。

すると、ひとりの男が私のそばにやってきて、厳しい口調で言った。「当職に身分証明書をまず見せなさい」

「身分証明書? なんでそんなものを」

「当職に見せないと、犯罪要件を構成するとみなさざるをえないな」

「いったいなんの犯罪に? この川は私有地なのですか?」

「当職が言っているのはそんなことではない。非弁行為は立派な犯罪なのだ」

「非弁? 弁護士がなんの関係があるのです? あなたも弁護士なのですか」

「もちろん当職も弁護士だ」と彼は背広の襟の弁護士バッジを私に見せた。

「ですが、弁護士でなければ、この川に立ち入ってはいけないのですか? そんな決まりがあるのでしょうか」

「無論だ。この川の上流にあるB型肝炎給付金山から流れ出てくる金を採取できるのは弁護士だけなのだ」

私が絶句していると、弁護士はこう告げた。「さあ、重大な罪を犯す前に、ここを立ち去るのだ」

私は諦めた。泣く子と弁護士には勝てない世の中だ。かといって、もと来た道を戻るのもシャクだった。そのとき私は、渓流の脇に細い道があるのに気がついた。私は無言で歩き出し、その道に足を踏み入れようとした。するとさっきの弁護士が大きな声で言った。

「おーい、そっちに行けるのも弁護士だけだぞ! 過払い金山に通じる道だからな! なんてがめついやつだ! 油断もスキもありゃしない!」

すると砂金をとっている弁護士たちがいっせいに笑い出した。誰かが叫んだ。

「当職たちに着手金を払おうってなら話は別だ! そうじゃなきゃ、戻れ! 過払い金みたいにさ!」

私は嘲笑を背に浴びながら川を下り、テントに辿り着くと、荷造りして山を降りた。それ以来、私はキャンプをやめた。