苦い文学

しんがり

近い将来、世界各国は驚くべき方向転換を行うだろう。そして並々ならない外交的努力により、地上からあらゆる戦争・紛争を一掃し、全世界が力を合わせて「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現に取り組むだろう。

そして、私たちの美しい世界は「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記されたとおり、2030年までに「持続可能でよりよい世界を目指す 17 のゴール」を達成するのだ。

だが、そのとき私たちは、ひとりの男が山奥に隠れ住んでいることを知るだろう。その男は自分を裏切った世界を捨てて何十年もひとりで暮らしていたのだ。だから、SDGs のことなどなにひとつ知らず、ただ愚かな野獣のように生きてきた。

粗野で無教養なその男は、どんなゴミでもポイ捨てするのだ。山で暮らしてきたにしては、自然を大事にする気持ちもいっさいなかった。そして、口を開けば外国人や女を嘲る言葉が出てきた。私たちはさっそく人を派遣して、この男の心をサステナブルにしようとするだろう。そして、それが不可能であることも悟るだろう。

「この男のせいで私たちの SDGs が達成できない」と私たちは大いに苦しむにちがいない。なぜなら、「誰ひとり取り残さない(leave no one behind)」ことが、私たち SDGs の誓いだったから。

そこで、私たちは暗殺者を山に送り込み、この男を密かに殺すだろう。誰ひとり取り残さないためにはやむをえないのだ。

この暗殺者を、私たちはのちに「SDGs のしんがり」と呼ぶことになるだろう。