私にかぎらず多くの作曲家にとって困るのは、駅や電車で曲がひらめくときだ。すぐに携帯なりレコーダーに録音できればいいがそうもいかないこともある。そんなときに、発車メロディが流れると、そのひらめきはたちまちかき消されてしまう。
ああ、あのいまいましい発車メロディのせいで、この世からどれだけ名曲が奪われたことだろうか。だが、みなさんはこう思うかもしれない。たかが雑音で失われるなんて、もとからたいしたメロディではなかったのだ、と。
私も確かにそう思わないでもなかった。だが、今日、駅で経験したことを聞いてほしい。そう簡単に済ませるものではなかったのだ。駅で電車を待っているときに、発車メロディが流れたのだが、その瞬間、私は衝撃を受けた。
なぜなら、そのメロディは、私が思いついたメロディだったから。
私は思い出したのだ。以前、この駅でまったく同じメロディを思いついたことを。そして、そのメロディは、不意に流れた発車メロディによってかき消されたのだった。
だが、今や真相が明らかになった。それはかき消されたのではない。私から奪われたのだ。駅長たちは発車メロディを使って、駅を利用する作曲家たちからメロディを盗んでいたのだ!
私は作曲者としての権利を奪還し、賠償金を求めて、現在、提訴の準備をしている。みなさんの中には、そういうことならまず JASRAC に申し立てをすべきではと、考える人もいるかもしれない。だが、そんなことをしても意味などないのだ。JASRAC をよく見てほしい。JR が隠れているではないか……。