その小便器は、最先端の技術と周到な心理操作術の結晶であるばかりでなく、この世でもっとも恐ろしい産業製品と言われている。
はじめは、小便器の底に置かれた目皿の少し上あたりに1匹のハエが描かれているだけに見える。だが、私たちが、それに向かって排尿を始めるやいなや、そのハエは翅を振るわせ、便器の表面を動き回るのだ。
私たちがなおも追求をやめないと、そのハエは増殖する。2匹、6匹、15匹、もう数え切れないくらいだ。それらは便器の中をブンブンと飛び回り、私たちはもう排尿で狙い撃ちするのに夢中になる。
尿による攻撃がやまぬと見るや、ハエたちは私たちの唯一無二の「武器」に襲いかかろうとする。ここで怯んではいけない。尿を便器の外にまき散らしてはいけない。その瞬間、私たちはたったひとつの大事な武器を永久に失うことになる。ただ撃ち続けるのだ。
すると、おお、恐ろしいことに、ハエたちは便器の中央に集い、おぞましい顔に転ずるではないか。目はランランと燃え、口からは鋭い牙が突き出ている。
ハエの王、大悪魔ベルゼブブの登場だ。
ベルゼブブは、「ブブブブ」とけたたましいハエの唸り音を立てながら、その真っ赤な口を開け、炎の舌を突き出す。私たちの武器に食らいつこうとするのだ!
だが、恐れるな! 自分の排尿器官を信じるのだ! 私たちが、ひたすら尿を撃ち込めば、この大悪魔は崩壊をはじめ、最後はバラバラになってしまう!
ついにベルゼブブを倒したのだ。かくして私たちの排尿は終わる。
この小便器が世界でもっとも恐ろしい製品だといわれるのももっともなことだ。この戦いに挑めるのは、人並み優れた勇気と、人並み大きな膀胱をもった者だけだといわれている。