ずいぶん前からのことだが、地獄に落ちる人があまりにも多く、もはや処理しきれない状態になっている。
とくに火炎地獄の過密は深刻な事態を引き起こしている。なぜかというに、罪人が多ければ多いほど、火炎地獄全体の温度が下がってしまうからだ。温泉やサウナと変わらなくなってしまう。地獄でととのう人が続出では困るのだ。
そこで、地獄の運営は、火炎地獄の責苦をアウトソーシングすることに決めた。それが私たちの世界にある電子レンジだ。
電子レンジの内部には罪人たちがいて、私たちが何かを温めるたびに、電子の業火によってさいなまれている。もちろん、私たちには見えないし、それで食べ物がなにか悪い影響を受けるということもいっさいない。私たちの感覚を超えた次元で、電子レンジが簡易地獄として勝手に使用されているだけだ。
だが、私たちはなんとなく気がついてはいる。なぜなら、電子レンジの熱はほかの熱とは異なるからだ。まるで悪意があるかのようだ。その悪意ある熱のせいで、私たちは皿を触ったとたん悲鳴をあげ、皿を放り投げる。それどころか、癇癪を起こして皿を叩きつけたことも何度もある。
これも電子レンジの熱に地獄由来の成分が若干ふくまれているためだ。とんだ迷惑だと思うかもしれないが、早くから体を慣らしておくのもいいことではないだろうか。